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4.「現代医学論」について

それではこの際なので、男系論者が側室制度なしで
男系継承が可能とする最後の根拠についても考察したい。

それは「現代医学論」である。
(長文ですので最下段の【考察】からお読みください。
 女性にとって不快な部分がございます。
 謹んでお詫び致します。)

明治時代の一般庶民の乳児死亡率は現在と比較にならないほど高かった。
20%程の乳児が出産時に死亡していたようだ。

皇室ではさらに死亡率が高く、明治天皇の10人目のお子様が出産時には
実に9人が死亡していた。

明治天皇の御意志により11人目以降の子供が
「西洋医学」の恩恵を受け5人中4人が成人した。

以降、皇室で生まれた子供はほぼ成人できるようになった。

(参考文献 『四代の天皇と女性たち』 小田部雄次 文春新書 平成14年)

さて、このような産まれた子供を死なせない「現代医学」が
産まれる子供を増やす側室制度の代替案として
期待できるというのである。

私は側室制度があった時代の皇室と、側室制度がない現在の皇室で、
妊娠・出産・子育てを考慮した場合、どのような差異があるのか分析した。

また、大正天皇と昭和天皇は側室制度を利用されなかったが
子育ては乳母に任された。

今上陛下は子育てをご自身でなさたので、現在の皇室は分けて考えた。

分析結果は以下の一覧表の通りである。

妊娠は性に関わることであり不敬な表現があるかと思うが
避けて通れない内容であり、何卒ご容赦願いたい。

また、「妊娠可能期間」「妊娠回数」などは女性にとって不愉快でしかないだろう。
私は男性です。
言い訳がましいですが、本論は男系維持がいかに女性への負担を強いるかを
明らかにすることが主眼であります。
とはいえ議論のために不快な思いをさせることについて心からお詫び致します。


内容 側室制度あり 側室制度なし
子育てなし
側室制度なし
子育てあり
①対象となる天皇 明治天皇以前
大正天皇
昭和天皇
 
今上陛下
(皇太子殿下)
②「現代医学」の適用の有無 無し 有り 有り
③妊娠可能期間 男性 20歳〜60歳 →40年間
20歳〜60歳だが
女性(お妃)の年齢に依存する
 
20歳〜60歳だが
女性(お妃)の年齢に依存する
女性 常に適齢期の女性が存在する 20歳〜40歳 → 20年間
25歳〜40歳
→ 15年間

※晩婚化を考えると20歳から
起算することはできない。
 
④妊娠できる機会 (チャンス)
男性(天皇)を基に計算する

40年x12ヶ月(※1)x女性の数
= 480回x2人以上(※2)
= 840回以上

※1 : 排卵は月一回で1年で
12回という意味
※2 : 側室の複数人の女性ということで
「2人以上」とした
 
女性を基に計算する

20年x12ヶ月=240回 
女性を基に計算する

15年x12ヶ月=180回
⑤妊娠期間と産後期間 子供一人につき妊娠期間10ヶ月と産後期間6ヶ月の合計16ヶ月。 妊娠、産後期間の女性がいても、別の女性が妊娠できる機会(チャンス)がある。
子供一人につき妊娠期間10ヶ月と産後期間6ヶ月の合計16ヶ月が、妊娠できない期間として上記の240回から差し引かれる。
 
子供一人につき妊娠期間10ヶ月と育児期間12ヶ月の合計22ヶ月が、妊娠できない期間として上記の180回から差し引かれる。
⑥最大出産人数
男性の体力、精神に依存するため計算不可
嵯峨天皇 50人
景行天皇 49人
光孝天皇 46人が上位3位である。

光格天皇は19人
明治天皇は15人である。
 
240回÷16ヶ月=15人 180回÷22ヶ月=約8人
⑦乳児死亡率 2〜3人に一人が成人前に死亡 ほぼ全員成人する
ほぼ全員成人する
 
⑧実際の成人数
江戸時代以前であっても側室を利用しなかった天皇があり ばらつき大きく一般化できないが、側室を利用した天皇は大まかにみて 5人以上は成人していたようである。
 
4人〜6人 1人〜3人




【 一 覧 表 の 解 説 】

①対象となる天皇
 明治天皇以前で対象となる天皇は100名以上おられる。
 これらの天皇の皇子女数のバラツキは非常に大きい。

 詳細は上記参考文献の『四代の天皇と女性たち』に詳しい。

 「側室制度なし」で「子育てなし」の対象となる天皇は
 大正天皇、昭和天皇である。
 (実際には側室は存在したが利用されなかった。
  また「子育てなし」とは乳母を利用したという意味合いであり
  当然ながらまったく子育てしなかったという意味ではない。)

 「側室制度なし」で「子育てあり」の対象となる天皇は
 今上陛下である。

 皇太子殿下も一覧表にかっこ付きで記載した。

②「現代医学」の適用の有無
 明治天皇の10人目までのお子は「西洋医学」が施されていなかった。
 10人中9人が死亡している。成人した1人が大正天皇である。
 11人目から15人目までは「西洋医学」により4人が成人した。

 大正天皇以降「西洋医学」が採用され、乳児死亡率は劇的に改善した。

 男系論者が主張する「現代医学論」が乳児死亡率改善という意味合いであれば
 明治後期からすでに採用されている。

 にも関わらず現在の皇統の危機が出来した事実が有る以上、
 常識的に考えて「現代医学論」は鵜呑みにできない。

 さらに推察するのであれば、なぜ男系論者は「西洋医学」と言わず
 「現代医学」という用語を使用するのか。

 「現代医学」という用語にこめられている考えは、
 人工授精、体外受精、代理母出産といった新技術を利用することではないか?

 これらの新技術については最後に考察する。

③妊娠可能期間
 妊娠可能な期間について「側室あり」の場合、男性の年齢に依存する。
 20歳〜60歳までであろう。
 (妊娠するのは言うまでもなく女性だが側室ありの場合、
  男性が女性に妊娠させることが可能な期間という
  意味合いとお考えください)

 「側室なし」の場合、女性の生理現象に依存する。
 年齢は20歳〜40歳までとした。
 私の身の回りに40歳を過ぎて出産した女性がいるが
 40歳を過ぎると母子ともに出産のリスクが増え、一般の産院では分娩できない。
 「男子を産む」ために女性にリスクを強いるような皇室を
 想像することができなかった。
 男系論者に有利となるよう45歳とするべきだろうが
 ここは40歳とさせて頂きたい。

 さらに現在の皇室は晩婚化を加味して、女性の起算年齢を25歳とした。
 実感としては30歳であるが、その場合下記⑥の出産できる機会(チャンス)と
 ⑦最大出産人数は減少する。

妊娠できる機会(チャンス)
 「側室あり」と「側室なし」で妊娠できる機会(チャンス)は
 3倍〜5倍以上の差があり比較にならない。

 「側室あり」の場合、妊娠する機会(チャンス)が男性に依存することが分かる。

 品がなくて申し訳ないが分かりやすく言えば
 男性の頑張り次第ということだ。

 それに対して「側室なし」の場合は女性の生理現象に依存している。

 女性の排卵時期を正確に予測することと、その予測に合わせて
 男性が協力することが必要となる。

 重要なことは「側室あり」の場合、男性の努力に比例して妊娠回数が増えるが
 「側室なし」の場合、女性の努力範囲は極めて限定的であるにも関わらず
 毎月生理が来る度に女性は一人で傷つき、周りからも無言の圧力を感じて、
 精神的な負担を負うことである。

 この精神的負担は男性が想像する以上に大きいものである。

 「側室なし」の中で、「子育てなし」と「子育てあり」を比較すると
 晩婚化と子育て期間が影響して1.25倍の差が出ている。

妊娠期間と産後期間
 「側室あり」の場合、妊娠、産後中の女性がいても
 別の女性が妊娠する可能性がある。

 「側室なし」で「子育てなし」の場合、妊娠期間10ヶ月、産後6ヶ月の合計16ヶ月を
 妊娠する機会(チャンス)から除外しなくてはいけない。

 「側室なし」で「子育てあり」の場合、妊娠期間10ヶ月、産後12ヶ月の
 合計上記の22ヶ月を妊娠する機会から除外しなくてはいけない。

 産後12ヶ月とした理由は断乳と生理再開の期間としたため。


最大出産人数
 「側室あり」はバラツキが大きく一般化できない。

 「側室なし」の場合、女性の妊娠期間、産後期間、子育て期間を
 除外しなくてはいけない。

 「④妊娠できるチャンス」を「妊娠期間と産後期間」で割ると
 最大出産人数となる。

 「側室なし」で「子育てあり」と「子育てなし」で比較すると倍の差が出ている。

 「子育てなし」は晩婚化を加味しているから
 子育てと晩婚化が大きな影響を与えることが分かる。


⑦乳児死亡率
 冒頭でも述べたが明治天皇が西洋医学を取り入れるまでの
 皇室の乳児死亡率は一般の人々と比較して非常に高く
 大まかにみて成人したのは2〜3人に1人だったようだ。

 西洋医学を取り入れてからの皇室はほぼ全員が成人している。

⑧実際の成人数
 実際の成人数は「側室あり」の場合、バラツキが大きく、一般化できない。
 光格天皇から今上陛下までを参考までに下記に列記する。
 (※光格天皇、仁孝天皇、孝明天皇の皇子女数は手持ちの資料がなく、
   Wikipediaを参照しました。)

  光格天皇 19人中、成人したのは6人
  仁孝天皇 16人中、成人したのは7人
  孝明天皇 13人中、成人したのは6人
  明治天皇 15人中、成人したのは5人
  大正天皇 4人中、成人したのは4人
  昭和天皇 7人中、成人したのは6人
  今上陛下 3人中、成人したのは3人

 光格天皇から明治天皇までは側室制度があり
 多くの子供が産まれる変わりに3人に1人しか成人していない。

 大正天皇と昭和天皇は側室を利用していないが
 多産であった。

 お妃様が早くして結婚し、子育ては乳母の役目であり
 子育てから解放されて出産に専念できた。

 現在の皇室において、お妃様候補は高学歴でキャリアを
 積んだ方が選ばれるとすると、晩婚化はやはり避けられないと思う。

 20代後半で皇室には入り、出産後に子育てをしていては
 多くても3人の子供を出産するのが限界であろう。

 つまり歴代天皇の半分以下の子供となる。


※「⑥最大出産人数」と「⑧実際の成人数」の差異について

  「側室あり」の場合は男性の精神と肉体に依存し、
  「⑥最大出産人数」と「⑧実際の成人数」の相関関係を
  導きだせない。

  一方、「側室なし」の場合は、子育ての有無に関わらず
  「⑥最大出産人数」の約3分の1が「⑧実際の成人数」となった。

  その原因は、「側室なし」の場合は妊娠の機会(チャンス)
  女性の生理現象に依存すること、
  女性が努力できる範囲が極めて限定的で、男性は女性に
  協力することしかできず、妊娠は運頼みとなること、
  その結果、妊娠に至るまで多くの歳月が必要となって

「⑧実際の成人数」になると考える。



【  考  察  】

1.上記②の繰り返しになるが「現代医学」(西洋医学)は
  明治後期からすでに採用されている。

  にも関わらず現在の皇統の危機が出来した事実が有る以上、
  常識的に考えて「現代医学論」は鵜呑みにできない。

2.一覧表から分かることは乳児死亡率が
  改善したとはいえ、元々産まれる子供の数が著しく
  減少しており、「現代医学」が活躍する機会は乏しい。

  現在の皇位継承の危機を考えれば良い。

  側室があれば今からでも皇太子殿下、秋篠宮殿下に
  男子誕生の可能性があるが、
  「現代医学」が次に活躍する機会は悠仁親王殿下の
  お妃様のご懐妊、出産、子育てまで待たなくては行けない。

  この一点だけみても「現代医学」は側室制度の代替にはなり得ない。

3.「側室あり」の場合、男性の努力に比例して妊娠・出産数が増える。
  つまり男子が生まれない場合、責任は男性にある。

  「側室なし」の場合、子育ての有無に関わらず
  妊娠する機会(チャンス)と最大出産数は
  女性の生理現象に依存することになる。

  不妊の原因は男女ともに50%であるが上記④のような
  精神的負担が伸し掛かるのは女性である。

  女性を精神的負担から解放し、男性が責任を負うようにしなければ
  代替案と呼ぶことはできない。

4.「⑧実際の成人数」は側室ありの光格天皇〜明治天皇と
  側室なしの大正天皇、昭和天皇で大差がない。

 「⑧実際の成人数」と因果関係があるのは晩婚化と子育てである。

  だからと言って「若い女性との結婚」および「乳母の復活」は
  現実的ではない。

  男子を出産するまでひたすら妊娠することが条件で皇室に入るような
  20歳程度の女性が存在するとは考えにくい。

  存在したとしても皇族方との相性が合うとは限らず
  結婚に至るかどうかわからないので、そのような女性が大勢存在する必要がある。

  さらに家柄や資質を条件として加味すると摂家のようなお妃を
  輩出するグループが存在する必要があり、現実的とは思えない。

  また、皇子を自ら育て、教育することは昭和天皇がお望みになり
  今上陛下、皇后陛下が実践されて皇太子殿下、秋篠宮殿下に踏襲されてあり、
  宮中に乳母を置くような旧習にもどることは考えられない。

  さて、「現代医学」と晩婚化・子育ては関連づけることさえできず
  まったく無力であることだけは述べておきたい。

5.上記②において人工授精、体外受精、代理母出産等の
  新技術について言及した。

  (現に渡部昇一先生は人工授精を提案している。)

  これらの新技術は女性の負担を増加させる。

  人工授精は卵管を広げる際に苦痛を伴う。

  体外受精は排卵促進剤の副作用に苦しみ、卵子を子宮に戻す際に苦痛を伴う。

  代理母出産は我が国では禁止されており現実的ではなく、
  さらには遺伝的な母と出産した母の2人の母が存在することとなり、
  母子ともに心に傷を持つ場合が有る。

  さらにそこまでして妊娠できない(もしくは男子が生まれない)場合の
  精神的苦痛は男性には想像できない。

  根本的なことを言えばこれらの新技術はあくまで「子供が欲しい」という
  夫婦の切実な願いを叶えるためのものである。

  「男子を産む」という目的で上記のような苦しみを
  女性に強要することは野蛮であり、また生命倫理上、許されない。

  そこまでして皇室が男子を望むのであれば国民の心は皇室から離れるであろう。



【谷田川先生への再反論 各項目へのリンク】

トップページ
1.経緯
2.「確率論」について
  引用(有識者会議報告書抜粋)
  考察(皇子女数 一覧表)
3.「フランス王室論」について
  引用(参考文献より)
4.「現代医学論」について
5.まとめ